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2004年07月19日
志賀公江氏「血と毒」

私は何故、芸術という言葉の響きに魅せられ、文章を書き続けているのだろう。
歩みを止め、佇むとき、私は決まって、ギリシャ神話の鳥人・イカロスのことを考える。彼は、周囲の人々にとっては信仰の対象に過ぎなかった、太陽という存在の実存を解き明かそうとして失敗し、挫折と孤独の中、空から失墜せざるを得なかった。私のやっている行為は、イカロスの直面した現実から目を反らし、その結末を忌諱しているに過ぎないのか。
蝋で固められた羽根のように、自分の背中に括り付けられたその儚げなる「芸術」を、私は不意に、打ち壊してしまいたい衝動に駆られる。破壊され、粉々に砕け散った芸術の破片を、私の足は執拗に踏み付け、蹴り飛ばす。だが、暫くすると、私は踏みつける足を止め、再びそれら残骸を組み立て始める。蝋の羽根であれ、より強く補強し、羽ばたき続ければ、いつかは実物の太陽に到達できると考えた、夢想家イカロスの如く。
2004年7月12日。今回は、前期を通じて文芸特別講義のチーフ講師を務められた、志賀公江先生による締め括りの授業が行われた。「漫画と表現規制」というコンセプトのもと、前期は計6名の特別講師の先生が、表現者のたまご達の前で、表現と芸術論を語られたことになる。
日時: 2004年07月19日 01:32 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年06月27日
渡辺やよい氏「到達感なきエロス」

本年度4月より、日芸所沢校舎にて開講されている文芸特別講義1、前期講師陣の取りを務められるのは、レディースコミック(通称レディコミ)誌上でご活躍される女流エロ漫画家・渡辺やよい先生である。渡辺先生は、その黎明期からレディコミを牽引されてきた、レディコミ界の生き証人でもある。
「レディコミ」の代名詞は、ハードなSEX描写を主体とした、エロ漫画にある。レディコミの成り立ちは、20年以上昔に遡る。当時、従来の少女漫画に飽きた女性読者層(主に20代後半以上)に、雑誌が、より刺激的な作品を提供し始めたのが、成立の由来だという。近年では、レディコミというジャンルの成熟と、条例によるエロ描写規制に伴い、エロ漫画ではないレディコミ作品も登場する様になった。
日時: 2004年06月27日 05:57 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年06月14日
御茶漬海苔氏「コミケ、プロの視点から」

梅雨の中休み、初夏の風を漂わせる去る6月14日。毎週、各ジャンルで活躍される漫画家の先生を講師としてお迎えする文芸特別講座も、早いもので前期後半に突入した。今回は、怪奇・サスペンス漫画の執筆を始め、近年は自身が企画された実写ホラービデオ作品の監督も務められる漫画家、御茶漬海苔先生がいらっしゃった。
白く長い髭を蓄えられた御茶漬先生は、現在プロ(商業誌)の漫画家でありながら、修行時代に経験された同人誌作家としての仕事を、今も尚、継続されているという。中でも、アマチュア漫画家の晴れの舞台とも言われる、コミックマーケット(通称コミケ=同人誌漫画の即売会)という催し物について、先生は今回深く言及された。
日時: 2004年06月14日 07:49 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年06月07日
永井哲氏「あたりまえでさりげない存在を目指して」

2004年6月7日の文芸特別講義は、現在関西で聾唖者団体の代表を務められる漫画家・永井哲(ながい あきら)先生が教鞭をとられた。小学生の時、不慮の事故に纏わる手術をされた永井先生は、現在も聴覚を失われた状態にあり、今回は聾唖漫画家の立場から見た、漫画表現における障害者問題についての講義がなされた。
自身も手塚治虫の大ファンであったという永井先生の口からは、表現と障害者の問題について、新鮮で且つ的確な見解がなされた。先生は、一般的な漫画やドラマに登場する障害者の設定の多くが、如何に的外れで誇張されているか、指摘された。
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日時: 2004年06月07日 06:33 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年05月24日
日野日出志氏 「創作は出産である」

2004年5月24日、日本が誇る幻想漫画家・日野日出志画伯は、ふたたび日芸の土を踏まれた。今回の講義は「剣とペン・マンガにかけた青春とボロノート一冊の人生」と題され、少年期から現在に至るまでの、人間・日野日出志の実像に照明が当てられた。
講義冒頭、日出志画伯はおもむろに、受講生達に一冊の古いノートを提示された。愛しそうにそのノートをめくる画伯の眼差しは柔らかかった。「これは、私の想いがこもったボロノート・・作品の総目録です」
日出志画伯が描いた幻想漫画の中に、画伯自身の臓器・性器への深い憧憬を読み取るのは、私だけではあるまい。私の目にはそのノートが、透視図越しに見た画伯の内蔵にさえ見えた。何故なら私自身、普段から常に雑記帳を持ち歩いている。それは、小説の構想を蓄えておく為の創作ノートであり、結果として、普段は抑圧された私の内面を露呈した、懺悔帳ともいえる代物になっている。そんなノートを他者に開示し、恍惚とも言える表情を見せる画伯はやはり、臓器や陰部を始めとする、自己の肉体に対して、深い憧憬があるのだろうか。
日時: 2004年05月24日 05:14 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年05月17日
関口シュン氏「浮世絵とMANGA」

その野武士は刀を振りかざし、眼前にいる秀吉に襲いかかろうとする。だが次の瞬間、野武士の身体は、秀吉の鋭い眼力に射竦められ、金縛りにあったように竦み上がってしまった・・。
愉快だったのは、鎧を身に纏い、さも物々しく描かれた秀吉の姿と、彼が野武士を睨みつけた際、両眼から放たれた眼光の描写とのアンバランスな対比だった。秀吉の鋭い睨みが、発光する一条の怪光線となって、野武士の身体を刺し貫いていたのだ。「ドラゴンボールの“カメハメ波”にそっくりだと思いませんか?日本人は既に、浮世絵の中にそのルーツを描いていたのです」
席を埋めた受講生の間から、思わず笑い声が上がった。スクリーンに映し出された浮世絵を指し示しつつ、黒いスーツに身を包んだ関口先生は、長い髪を掻き分けた。
日時: 2004年05月17日 07:00 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年05月10日
山本夜羽音氏「エロ漫画界の硬派」

この一週間のうちに、一度も書店に行っていないという人は恐らくいても、一度もコンビニに行かなかったという人は、現代の日本には稀だろう。そんな人々が手にした書籍と言えば、コンビニの雑誌コーナーに設けられたたぐいの出版物に限られてくる。コンビニの書籍コーナーの中で、常に安定した売上を示すのは、言うまでもなくコミックと成人向け雑誌だろう。一般的なコミック、或いは(情報週刊誌やグラビア誌を主とした)成人向け雑誌をそれぞれ別個に考えた場合、そこに文化論として議論の余地を見出すのは今時容易だ。だが、サブカルチャー論が大学の講義として取り上げられ、アダルトビデオが市民権を得ている現代日本においても、エロ漫画ほど大衆に消費され、同時に公に言及することを敬遠されるものも珍しい。
今年度5月10日の文芸特別講義には、エロ漫画界の硬派、山本夜羽音先生がいらっしゃった。
日時: 2004年05月10日 02:13 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
2004年04月26日
日野日出志画伯、最初の授業

15年前、私は小学生だった。家庭の事情で別居していた父が、週の日曜だけ、私の住む埼玉の家にやって来た。父と食事をし、銭湯に行き、ふたりで本屋やビデオ屋を見て回る日曜日は、私にとって特別な日だった。私の心象風景には、父の横で手に取ったビデオケースの重みと、若干色褪せた毒々しいパッケージが、未だ消えることなく染み付いている。
「悪魔の実験」と題されたそのビデオの内容は、ナンセンス極まりなく、数人の男が一人の女を様々な種類の拷問にかけて責める様子を、延々と映し出すだけと言うものだった。そこには一切のストーリーもメッセージ性も存在せず、少なくとも小学生だった私には、本作の存在意義を言葉にして明確に表すのは困難な作業だった。かと言って、本作に当時の私が魅力を感じなかったと言えば嘘になる。当時私は、物事を表現する手段において、製作者がここまで視聴者を突き放した方法を敢行した事実に少なからず驚き、同時にそれまで味わったことのない高揚感を体験した記憶がある。誤解しないでいただきたいのは、私は本作の嗜虐性や出演者の演技に感銘を受けたのではない。巷に氾濫するドラマや演劇の作為性を、今一つ信用することの出来なかった小学生に、ある日、表現に対する強烈な渇望を呼び起こした現実を語っているのである。
その映像作品の原作者が漫画家で、かなり根強いファンを持つと知ったのは、もう少し年をとってからだった。漫画家は、名を日野日出志と言った。当邦随一の幻想漫画を描く。ここでは敢えて、ホラー漫画なんて野暮なことは言うまい。日出志画伯の描く漫画は、イコールホラー漫画ではない。「日野日出志」という人間の人生を歩んで来た者にしか描けない、人物の履歴書なのである。
日時: 2004年04月26日 15:23 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)
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