2004年10月22日
水口哲也先生 第一回講義
10/14 水口哲也先生 講義内容
前回までのしりあがり先生はしばらくお休み。今回と次回は、ゲームクリエーターとして活躍されている水口哲也先生をゲストに迎える。

水口先生は1990年に文芸学科を卒業、ゲーム会社SEGAに入社した。13年勤続し、多くの重要なプロジェクトに関わっていくなかで、独自の理論を固めてきた。去年から独立し、ますます多忙な日々を送られている。
在学中は、メディア美学を中心に学んだ。それをゲームの演出論や製作論に展開していったという。
「メディア美学のなかで、ひとつ忘れられない言葉に遭ったんです。これまでの僕の活動の基本にもなっているんですが」
その言葉とは、カナダのメディア学者M・マクルーハンの「すべてのメディアは、人間の感覚の延長線上にある」。
たしかに、メディアに限らず、人間の生み出した道具はすべて感覚や身体機能の延長線上にあるといっていい。車は足だし、テレビは視覚である。だがメディアの発達につれ、ハード面はマクルーハンの言葉が当てはまるものの、ソフト面ではそうはいかなくなってきた。ハード面とはメディアにおける物体で、テレビの受信機やゲーム機の本体といったもの。ソフト面はコンテンツとも呼び、テレビであればプログラム、ゲームであればゲームソフトというように、中身や内容を指している。
長年コンテンツの製作を手がけてきた水口先生は、こう断言する。「全てのコンテンツは、人間の欲望、欲求、本能の延長線上にある」。
コンテンツはエンターテイメントであり、基本はいかに人を愉しませるかという点にかかっている。作り手からいえば、いかに人間の欲望、欲求、本能を再デザインするか?ということだ。ちなみに、entertain という動詞には、人をもてなすという意味もある。コンテンツにも、もてなし感が重要だと水口先生は仰る。それはユーザーを楽しませたい、喜ばせたいという作り手の心意気といえるだろう。水口先生はつねにその心意気を持って果敢に実践し、大きな成功をおさめた方である。
90年代は、SEGAの中で、映画やミュージックビデオなど映像としてのCGの製作に携わった。その後リアルタイムのCG、つまりゲーム製作に進むが、当時(およそ11年前)のCGの技術は、アニメーションの技法をそのまま取り入れたものであった。アニメーターが1枚1枚描き、それをプログラマーが組み立て、リアルタイムのアニメーションに仕立てていたのである。
ここで、94~95年に製作された「SEGAラリーチャンピオンシップ」というゲームと、その進化の過程をDVDで見せていただいた。発売当初は、映像に張りぼて感があり、画面上の動きもぎこちない。96年にはCGの技術革新があり、かなり滑らかで自然な動きになる。98年には、実際にバイクに乗っているような感覚を味わってもらおうと、プレイヤーが座るサドル付きのものが発売された。これが評判になり、ゲームセンターで大ヒットする。
「それまではずっと、生理的なエンターテイメントを目指してました。バイクに乗ってる感覚とかは体感的な気持ち良さですよね。でもここでふっと考えた。ゲームで人を感動させられないか? と。ゲームで人を泣かせたり笑わせたりはできないものかと。感覚の延長線上だけではあきたらずに、他の要素を加えたくなったんです」

そんな逡巡が、ゲームセンターから家庭用ゲームソフトの製作に移る動機となった。ゲームに感動の要素を盛り込むということで思いついたのは、歌、踊り、ストーリーといったミュージカルの構成要素である。こうして「SPACE CHANNEL」の製作が始まった。
構想は、持ち込みのCGからヒントを得た。宇宙放送局の人気レポーターの女の子(名前はうらら)を主人公に、ビデオクリップの感覚で、映像と音楽を一体化させる。97年に作られたそれを実際に見せてもらうと、主人公の女の子の感じが良くなかった。水口先生が仰るように「クールを目指しているのはわかるんだけど・・・、裏目に出ちゃっていますね。女性受けも悪かった」のだった。
そこで、改良すべくさまざまな試みがなされた。カギは、プレイヤーの感覚をチアーする(励ます、高揚させる)要素を盛り込むことだった。具体的には、多数の女性にインタビューし、好ましいうらら像を探った。パントマイムをしているアーティストを講師に呼び、社内でワークショップを開いた。
「なぜパントマイムかというと、人を感動させるメカニズムを解明するためです。たとえば、誰でも笑わせられる方法はあるか? 逆に誰でも恐怖させられる方法は? 答えは、あります。これもワークショップで体験してわかったことです」

笑わせるには、いったん場に緊張感を生ませることが重要だ。たとえば目の前の人が急に動作を停止する。そのまま30秒も静止すると、見ている人は「いったいこの人どうしちゃったの?」と不安になり、緊張してくるだろう。そこで突然、笑いが発生する。場の緊張をほぐすために、生理的必然性に伴って発生する笑いだ。
誰でも恐怖させる方法は、たとえば大勢が、一人を標的にして憎しみの目で睨みながらじりじりと近寄っていく。標的にされた人は、必ずもの凄い恐怖感を味わうという。
「僕が言いたいのは、人を感動させるメカニズムは存在するんだ、と言うことです。物事には必ず理由がある。人の感情が動くにも必す何らかの理由が存在している。作り手は、そのメカニズムを知る必要があるんです。」
ただし、感情のメカニズムに沿った商品が必ずしもよく売れるとは限らない。ヒットという現象を生むには、時代の波長に合っているかどうかという、もう一つの条件が存在するためだ。「SPACE CHANNEL」は、そこそこ売れたが予想を超えた大ヒットにはならなかった。しかし、海外のMTVがうららのキャラクターを使用したいと申し出るなど、多方面での反応は良好だった。
「今日の僕からのメッセージは、全てのコンテンツは、人間の欲望、欲求、本能の延長線上にある。人を感動させるメカニズムは存在する。という2点です。次回はRezというシューティングゲームの製作過程を見ていきたいと思います」
教室いっぱいの学生たちの眼が輝いた。製作されたゲームソフトよりもさらに、水口先生はその存在感で人をチアーさせる方であった。
日時: 2004年10月22日 17:35 | パーマリンク |TOPページへ ▲画面上へ
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