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2004年11月19日

しりあがり寿先生~今の世の中を自分なりにどう分析するか~

 しりあがり寿先生 二回目(10/7)、三回目(10/29)の講義内容

 前回、授業の最後にアンケート用紙を配布した。今回はその集計結果の発表から講義が始まった。ちなみに、アンケートの詰問事項は以下の通りである。

Q1 マンガ家になりたいですか?         
Q2 好きなマンガ家は?
Q3 好きなマンガ作品は?
Q4 好きなマンガ雑誌は?
Q5 マンガ以外で好きな作品、作家などは?
Q6 最近実際に買ったマンガ単行本は?
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 結果をざっとならべてみよう。

 マンガ家になりたいと答えた人は25人、なりたくないは116人、どちらとも言えないは8人だった。文芸学科であるから、マンガ家志望は少ないのだろう。

 好きなマンガ家で一番多くあがった名前は、浦沢直樹だった。2位が矢沢あい、次いで手塚治虫、さくらももこ、古屋実など、ポピュラーな作家名が並ぶ。

 好きなマンガ作品の第1位は「ドラゴンボール」、第2位「スラムタング」第3位「NANA」「ハンターハンター」(同点)、5位「風の谷のナウシカ」、6位「ちびまるこちゃん」「ジョジョの奇妙な冒険」「デスノート」など。今売れている作品と、少し前の作品が入りまじっている。

 好きなマンガ雑誌は、ダントツ1位が「ジャンプ」。あとは「マガジン」「サンデー」「スピリッツ」「りぼん」という順。

 マンガ以外で好きな作品、作家の1位は村上春樹。2位松尾スズキ、3位官藤官九郎、4位が宮部みゆきと野田秀樹、6位が村上龍と北野武、などだった。

 最近買ったマンガ単行本は、「デスノート」が1位。2位「NANA」、3位「シガテラ」等々。
 同じ内容のアンケートを他大学でも行い、その結果を日本大学芸術学部のものと比較してみた。少数意見にはばらつきが見られたが、上位5位ぐらいまではさほど違いがなかった。さらにマンガ単行本売り上げ全国データー(9/8~15まで)をみると、「デスノート」(vol.3)がトップであり、Q6の1位と重なっている。

 「ここまでやってきてなんですが、順位は問題じゃないんですよ」としりあがり先生。各項目で何がトップにあがったかは重要ではないというのだ。大事なのは、データーを自分なりに意味づけしてみること。総括して何が見えてくるか、そこからどのような結論を導くか、その過程に自分の個性があらわれる。それを知ることがねらいなのだ。

同時に行ったもう一つのアンケートは、「いま、大切だと思うことは何ですか」という問いだ。政治、社会、経済、文化の4領域でそれぞれ具体的な事象を羅列し、大切だと思うことにいくつでもマルをつけてもらう。文化では「音楽」、経済では「景気回復」、社会では「環境問題」が最も多く選ばれた。だがこれも、「今、何が一番関心を持たれているのか」という疑問に対する一つの答えにすぎない。羅列された事象はすべて、今の社会にあてはまるものだ。すべての事象は連鎖しているといえる。それぞれの事象をどう繋げていくか。そこに個性や志向が見えてくるのである。
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「市場分析は、今どんなマンガを描いたら売れるか、のひとつの手がかりです。それによって、自分が今どんなマンガを描くべきかもわかってくる。それと自分が描きたいことはまた別だったりするんですが」
例えば分析の結果、Aが売れる、という結論が出たとしよう。このAが売れる条件は、おおざっぱにいって2つ考えられる。1つは、明らかに潜在的ニーズがありながらAのようなものがまだ世に出ていないという状態。2つめは、すでに世の中でAブームが起こっており、市場にAが溢れている状態で、付加価値を付け差別化したA'を作り、売り出すことである。

差別化には、2つの方向があるという。上の差別化と水平の差別化である。前者は、Aをより綺麗に、上手に、という方向の付加価値型。後者は、Aとは全く異なるテイストのBを出す。つまりA'という路線をとらない差別化である。

「差別化にはリスクがある。それは環境に左右されるということなんです。すごく簡単な例で言うと、白地の中にある黒は目立つよね。でも黒地の中に黒があっても目立たないし、気付かれないでしょ。黒の自分を目立たせようとしても、周りが黒ばっかりだったら難しい。類似したモノがいっぱいある中で似たようなモノを出しても注目されないんです」

ポイントは、類似品から頭一つ抜きん出ること。ようするにいかに人の印象に残るか、目立つか、ということにつきる。この戦略が成功すれば、「インパクトがある」「個性的」などと評価される。

もうひとつのポイントは、好感度である。好きか嫌いかにはっきり分かれる商品は、それだけ印象が強いということになる。好感度が高く共感や親近感を抱かせるモノが売れるのはもちろんだが、嫌いだけれど気になる、という位置づけでも、それだけ関心が高いということで評価の対象にはなるだろう。
「目立つかどうかは市場の環境に左右されるし、好き嫌いは客層に左右されますね。商品のターゲットが高校生か社会人か、男か女かということで違ってくる。どう転んでも売れるかどうかは相対的。絶対とはいえない。リスクがあるんです」

作り手はこのリスクと折り合いつつ、ある程度の売り上げを確保しなければならない。マンガの世界に限らずどこでも競争は激しい。その中で一定の人気を保つ秘訣はなんだろうか?
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「ブランド・アイデンティティっていう言葉、聞いたことがあるかな。ブランドって、繰り返し同じ質のサービスを提供し続けるところに価値がある。だから作り手は、良質の作品をコンスタントに提供し続ければいいわけです。でもそれだけじゃ、実際には飽きられちゃう。同じ様なモノが出てきたらそっちに人気がいってしまう。そこで何か新しい工夫をしないといけない。不変性と変化が同時に求められているんです」
しかし、アイデンティティを持つ一人の個人がつくる作品は、ある程度統一されているはずである。それがすなわちオリジナリティであり、評価が確立すればブランド・アイデンティティという強みになるわけだ。そのなかで、どのように変化を打ち出していったらいいのだろうか。

「難しいんですがね・・・。作品と自分はある程度切り離して考えた方がいいかもしれない。
作品のアイデンティティ=自分のアイデンティティではないんです。作品は商品として割り切ることも必要です。そうでないと自分がぐちゃぐちゃになっちゃうから」
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 若かりし頃の先生は、「個性個性ってみんな言うけど、不変の個性なんてあるはずがない」と突っ張っていたという。
「個性を打ち出すのでなく、あえて消してやろうと思った。消しても消しても残るものがあれば、それがホントの個性だろうと。それで描くたびにスタイルを変えてたわけです」

今は、さすがにやりすぎたなとちょっと後悔しているんです、と苦笑される。だが、驚くほど多彩多様な作品群が、そのようなアマノジャク精神の賜物であることは間違いない。

さて、変化と不変性を両立するにはどうしたらいいのだろう? 答えは、より深い個性を持つこと、だ。それは、自分なりの世界観、歴史観、思想と言い換えることもできる。

「だから、アンケート結果も順位は重要じゃないんです。今の世の中を自分なりにどう分析するか、自分なりの世界観を構築する手がかりにしてくれれば」

より深い個性を持つことは作り手として必要とされるばかりではない。主体的に生きていこうとするなら、誰もが持っているべきものだ。しかしプロの作り手の方々は、ブランド・アイデンティティを保持しつつ、つねにセンサーを働かせ、作品世界に磨きをかけている。先生の口調の端々に、プロ意識がなせる努力の痕跡がかいま見えた。
                                                                                    

【寄稿者 菊地】

日時: 2004年11月19日 15:43 | パーマリンク |TOPページへ   ▲画面上へ

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